興居島好き x 古民家好きが高じて出会った、五右衛門風呂のある家
denjiの活動を始められたのは、時期的にはいつでしたか?
オープンは2023年の8月ですが、この島で家を持とう、と思い始めたのは、ちょうど5年前、2019年くらいですね。
私自身は伊予市の出身なんですが、小さい頃から興居島にはよく海水浴に来ていたんです。同じ海の家にずっとお世話になっていたんですが、毎年毎年遊びに来る中で、観光客がだんだん減っている、空き家が増えている、というのを耳にするようになりました。当時は宿も島に1つしかなかったんです。
大好きな島だし、泊まりでもっとゆっくりできる家があったらいいな、と思ったのがきっかけです。
興居島って、島なのにすごく交通の便がいいんですよ。松山市内側の高浜港は空港からも近いし、港の目の前に駅があるので電車で来れます。そこから興居島への船も頻繁に出ていて、15分で着く…島というちょっとした「非日常」を感じる場所に、こんなにアクセスよく来れるのって実はすごいんじゃないか?と思いました。
興居島には親戚がいるわけでもなく、ただ長年通った海の家のみなさんと顔見知りというだけだったので、ほぼゼロからの物件探しになりました。協力してくれる方を紹介してもらって、その方から情報をもらいながら、1年くらい経ってやっと、この物件が見つかりました。最初に写真を見せていただいた時に五右衛門風呂が写っていて…これは面白い!と思って決めました。そして「自分だけの別荘にするより、人が泊まれるようにしたほうがいいんじゃない?」という恩師のアドバイスを聞き、確かに!と思って「宿」にしようと決めました。
ということは物件が見つかったのは2020年の暮れですね。そこからは順調に進んだのでしょうか?
それが、そのあとの1年は「空白の1年」になってしまって、ほぼなにも進められなかったんです。
というのも、宿作りに事業融資を受けたいと思って各方面に申請をしたんですが、世の中は新型コロナウィルス真っ只中…「今宿泊施設のビジネスに融資する銀行はありませんよ」と言われてしまい、銀行は軒並み全滅。とにかくいろんなところにトライして、やっと融資を受けられたのが約1年後、2022年になっていました。
着工してからは、はじめてのことだし、築70年以上の古民家なので「開けてみないとわからない」みたいな問題がどんどん出てくるので、こちらも1年くらいかかりましたね。
また、最初に物件を見た時から私の中には「こんな宿にしたい」というぼんやりしたイメージがあったんです。でも、具体的にそれはどこがどうなっていることなのか?というのが当初はわからなくて。工事が進んでいって形が見えてきた時にはじめて「これじゃただ綺麗にリフォームした、ただの民家だな…」とか「宿っぽくないな…」っていう違和感に気づくんです。そこから色々と試行錯誤してイメージに近づけていく、という作業をしました。
古民家の「できたてだった頃」にタイムスリップしたかのうような圧巻の室内。
大塚さんのこだわりが随所に感じられる特別な空間が出来上がった。
「古民家の建築当時の姿」をイメージしたリフォーム
結果本当に素敵な空間が出来上がっていると思います。大塚さんのなかでなにかコンセプトはあったのでしょうか?
自分が古民家というものをすごく好きなので、「古民家として、自分が居心地良く感じられるいい空間」にしたいと思っていました。なので、元の構造を思いっきり変えるみたいなことはしていなくて、むしろ、もともとこの家が作られた時の状態を想像して、なるべくそれに沿った形で復活させる、というようなイメージですね。
純粋に宿泊施設としてだけ見れば不便なところもあると思うんですが「古民家だからこそ」泊まってみたい、昔の日本の暮らしを体験してみたいという方に来てほしいので、自分をお客さんのモデルとし重ねて、自分の好みをそのまま出しています。
なるほど。思い立ってから5年間。大塚さんの頑張りが詰まっていますね。
私は古民家が好きで、この島が好きで、この島全体のことが趣味なんですって結構みんなに言うんですけど、本当そうなんです。 宿を通してこの島に関わっていることがとにかく嬉しいんです。だから諸々の作業も別に苦ではないし、こうやってみよう、ああやってみようって楽しく思えるんですね。
融資を受けるのに苦労されたとのお話でしたが、工費はどのくらいかかりましたか?
工事自体は1,700万円くらいですね。みなさんびっくりされますけど(笑)。
ベースが古民家でも、普通に綺麗に、住める状態にするのであればそんなにかからないと思います。
私の場合は本来の古民家の良さを最大限に活かしたかったので、この家が建った当時の状態はどうだったのだろう?という試行錯誤をかなりしましたし、その結果左官屋さんをお願いしたり、五右衛門風呂をゼロから作り直したり、とコストのかかる工事にもチャレンジしていった結果ですね。
オリジナルの構造をしっかりと引き継いだリフォームが行われたことがよくわかる。
費用はすべて融資で賄ったのでしょうか?
大体半分ぐらいが融資のお金で、 4分の1ぐらい補助金使って、で、残りが自己資金ですね。
補助金はいろいろあって、耐震工事の補助金、浄化槽の補助金、Airbnbさんからの寄付を受けた、一般社団法人全国古民家再生協会の補助金というのもありました。
一般社団法人全国古民家再生協会からの補助金とは?
当時は「歴史的資源を活用した古民家宿整備事業」というのがあって、そこに応募して、頂けた形ですね。
ちなみに宿の予約についてもAirbnbさん一本で運営しています。
Airbnbによるホスト側への手厚い配慮と、質の高いユーザーコミュニティ
他の予約サービスを使わずにAirbnb一本というのは、どうしてですか?
まずは、私は普段サラリーマンをしていて副業でこの宿をやってる状態なので、そこまでたくさんのお客様を迎えられない=フル稼働にはしていないんですね。なので予約システムはひとつあれば十分、というキャパシティー面の理由があります。
あとは、Airbnb登録されてるお客さんって身元がしっかりしてる方が多くて、メッセージのやり取りもすごくスムーズなんですよ。 私としてはそこも気に入っていますし、あとはAirbnbにはホスト側からの予約承認っていう仕組みがあるのもいいと思っているんです。
Denjiは、人数にもよりますが1泊5万円くらいで、ちょっと高いんです。これはビジネスとしてというよりも、私のこだわりとして、そのくらいの価値のある体験・環境を提供していると思っているし、それに共感してくれる方にこそ来てほしいという想いの表現なんです。時々「値引きしてくれませんか?」といった打診もいただくことがあるんですが、そういうケースではお断りさせていただく、ということができるんです。そういう細かい設定ができるようになっているのもすごくありがたいので、今の稼働ペースでいる限りは、Airbnbさんだけで十分満足なんです。
カスタマーセンターもわからないことがあったら日本語で丁寧に教えてくれますし、民泊をされている他の方と話しても、Airbnbの評価は高いですね。
今の稼働ペースはどのくらいなんでしょうか?
基本は週に1組、です。大型連休とか、夏のハイシーズンになるともうちょっと稼働します。
原則として、鍵の受け渡しは直接お会いしてするようにしているんですよ。自分の大好きなこの島をどうして選んでくれたのかとか、お話したいんです。
どんなお客様がいますか?
1番多いのは国内、関東からの方が1番多いですね。外国の方は今のところ、1割いかないぐらいです。
ロケーションを気に入ってくれた方と、日本の伝統的な家に泊まってみたい、と思ってきてくれる方が多いですね。
ちなみにうちに宿泊はしないけど、島に日帰りでふらっと来られる外国の方がすごく増えていますね。
海外からの方とのコミュニケーションはいかがですか?
私、英語が喋れないんですけど、Airbnbやスマートフォンの翻訳機能とかを使ったりとかしているのと、あとは島民の方で英語喋れる方がいるので、その人にちょっと来てもらったりとかして、ゲストの方と一緒にご飯食べながら喋ったりとかしてます。
ご飯に誘うんですか!それはすごいですね。
せっかく来てもらったのに、私が英語ができないというだけでほったらかしにしてしまうのは勿体無いなと思って。もちろんお相手が乗り気だった時だけですよ?とても楽しんでくれたみたいで、よかったです。もちろん毎回毎回ご飯に誘われる宿とかではないですけど(笑)、とくに外国からの方とかは、ちゃんと楽しんでくれてるかな、心配なことはあるかな、とか気になるじゃないですか。とにかくこの島を好きなってほしいので、そのためのコミュニケーションはとっていきたいですね。
ゲスト、ホスト、地域の三者が自然につながる「場」が生まれた
泊まってみてのみなさんの反応はいかがですか?
この宿は今のところベッドがないので、畳の上に敷布団というタイプだけなんですけど、 敷布団はすごくいい評判がいいですね。あとは縁側とか。本当に些細な部分なんですけど、そういう日本の昔からの暮らしのエッセンスを感じて、それを喜んでもらえることが多いです。そういうことを若い人や、外国の人に言ってもらえるとすごく嬉しいですね。
地域の方からの反応はいかがですか?
ひとりで改装工事を始めた頃から、みなさんすごく気さくに声をかけていただいて、今はすっかり仲良しになりました。
本当にみなさん優しいんです。あとここのお風呂を見て「うちも昔は五右衛門風呂だったんだよ!」と喜んでくださる方が多いです。この地域には多かったらしくて。そうやってつながりを感じてもらえるのは嬉しいですね。
あと、Airbnbでお客様からのレビューを読むと「近所の方からみかんもらいました」とか「庭でBBQしてたらお魚もらいました」とか書いてあって・・知らないうちにそんなことまでしてくれてたんだ!っていうことがあるんです(笑)。
親切というか、チャーミングですね!
本当に・・・私は宿を通じでたくさんの方と出会えることもですが、なんと言っても自分が大好きな興居島のみなさんと仲良くなれるのが本当に嬉しいんです。島の一員として受け入れてもらえるようになることが、いちばんの目標です。
最後に、「denji(傳次)」という屋号の由来を教えてください。
これは、実は私の祖父の名前なんです(笑)。岡山の漁村に住んでいて、常に海がそばにあった人生を送った人なんですが、島で宿をやろと思った時にふとこの名前が浮かんだんです。漢字だと「傳次」=次に伝える、という意味にも読めるので、この島の伝統的な古民家を次の世代に残し伝えていくという意味にも取れるし、ぴったりなんじゃないか?と思ったんですね。
ちなみにもう一人、親戚にかっこいい名前の叔父がいるので、もし2軒目を作ることがあれば、その名前を使おうかなと思っています(笑)。